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大阪高等裁判所 昭和42年(行コ)4号 判決 1969年9月30日

控訴人

宝商会こと 中村仲太郎

代理人

赤沢敬之

復代理人

辻公雄

被控訴人

代表者

西郷吉之助

指定代理人

川井重男

外五名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一、(一)控訴人の営業、(二)控訴人輸入の本件物品に対する関税の賦課徴収の各事実関係、ならびに、(三)関税定率法別表の関税率表(以下別表と略称する)およびみぎ別表中の「関税率の適用に関する通則(以下通則と略称する)」の文理解釈上、本件物品が別表何号所定の物品に該当するか(別表七〇一四号所定の物品に該当せず、同三九〇一号四所定の物品に該当するものと認める)の点に関する当裁判所の判断は、つぎのとおり追加、変更および削除をするほか、原判決理由欄の記載の冒頭から同一四枚目表一行目末尾までと同一であるので、みぎ記載を引用する。

原判決一三枚目(三三九丁)表三行目冒頭から同枚目裏九行目末尾までをつぎのとおり変更する。

「関税率は国内産業の保護、国際収支の調整を目的とする不急・不要物品の輸入の抑制、特定の物品に対する国内の税負担に均衡する関税の徴収、国際条約または協定、国際相互主義、特恵関係その他の国際政治・外交・経済に亘る政策上の配慮等多面に亘る考慮から定められているから、特定の物品にどの関税率を適用するのが相当であるかを判断する際には、法規の文理解釈だけからその物品が関税率表の何号に該当するか明瞭な場合は別として、そうでない場合には、特定の物品に対し特定の関税率を定めた趣旨に副うように法令等を解釈適用しなければならないのであつて、別表の二以上の号に該当する物品についてそのうちのいずれの号によつて関税を課すのが相当であるかを通則三、(二)を適用して判断する場合にも、いわゆる「その物品に重要な特性を与える物品」の意味を、みぎ各号所定の関税率を定めた趣旨を汲んで解釈しなければならない。

前認定の事実関係から明らかなように、本件物品と認むべき物品であるところ、それがガラス製品であるか合成樹脂製品であるかによつて関税率を異にしているのは、一面において関税に関する国際協定や関税の国際相互主義に由来する点も多少あるようであるが(当審の調査嘱託に対する大蔵省関税局長の昭和四三年四月八日および同年六月五日の回答書参照)、主として、国内のガラス産業は比較的に、国際競争力が強く高率の関税をもつて保護育成する必要も少いのに対して、国内の合成樹脂産業は、比較的に、国際競争力が弱く高率の関税をもつて保護育成する必要が多かつたことに由来するものと解するのが相当である。このように、両製品についての関税率の差異は産業保護の必要程度についての両産業の差異に由来しているから、本件物品が別表の何号に該当するかを判断する際には、国内の合成樹脂産業ないしガラス産業のいずれに保護を与えるかを基準として判断しなければならない。したがつて本件物品の再帰反射作用と言う科学的特性を発揮させるについて最も高度の貢献をした物品がガラス製品部分であるか合成樹脂製品部分であるかは、本件物品部分であるかは、本件物品が別表の何号に該当するかを判断する一資料にはなるが、必ずしも決定的に重要な資料と言うことはできない。

そこで本件物件に通則三、(二)、(三)、を適用して前記別表の何号に該当するかを判断すると、通則三、(二)による判断としては、(1)本件物品を構成している物品のうち、ガラス小球の部分と合成樹脂の部分のいずれが材料として高価額であるかを判断する資料は皆無で、この点を明確にするのは困難であり(当審の調査嘱託に対する住友スリーエム株式会社の回答書参照)、(2)本件物品の輸入によつて損失を受けるのがガラス製造、加工業者であるか合成樹脂製造、加工業者であるかも判別できないし(前認定のように本件物品は国際特許品であるので国内には競走産業がない。また、前認定の本件物品の構造によると、本件物品の価格の構成は、特許実施料、投術料を含む加工賃が大部分を占め、原材料代金はガラス製品部分、合成樹脂製品部分も比較的に僅少であることが認められる。)、(3)本件物品の再帰反射作用を生み出すのがガラス製品部分と合成樹脂部分の双方と認められるのであるから、以上の理由によつて、本件の場合は、通則三、(二)によつても本件物品がガラス製品または合成樹脂製品のいずれとみなされるべきものであるか判明しない場合に当ると言わねばならない。したがつて、本件物品に対しては通則三、(三)が適用されることになり、本件物品はガラス製品の税率と合成樹脂製品の税率のうちより高い税率である合成樹脂製品の税率をもつて課税されるべきものである。」

二本件物品に対する課税処分の経過および三〇%の税率による課税処分がされるに至つた事情、ならびに、みぎ課税処分のあつた期間ないしその前後における本件物品と同一品種の物品に対する課税処分の状況についての当裁判所の判断は、つぎのとおりの追加、変更および削除をするほか、原判決一四枚目表二行目冒頭から同一五枚目裏八行目末尾までの記載と同一であるので、みぎ記載を引用する。

(一)  原判決一四枚目表目行目に「ところで、」とある次に、「当審における調査嘱託に対する横浜税関長の回答書ならびに大蔵省関税局長の昭和四三年四月八日付および同年六月五日付各回答書、」と追加挿入し、

同三行目から四行目にかけての「右期間内において」との記載と次の句点との間に「(昭和三六年三月三一日改正税関定率法別表施行後、同三七年三月一六日の税関鑑査部長会議の決定までの間)」と追加挿入し、

(二)  同枚目表八行目冒頭から同最終目末尾までの記載を削除し、

(三)  同枚目裏一行目に「乙第一、二号証」とある次に、句点を置き、その次に「前記調査嘱託に対する三通の回答書」と追加挿入し、同一五枚目表二行目に「物品の所属について」とあるのを

「物品が別表何号に該当するかについて」と、同三行目に「右申立以降は」とあるのを「みぎ口頭の不服申立のあつた後に輸入された本件物品と同種の物品については」と、同五行目に「七〇一四」とあるのを「七〇一四」と、それぞれ改め

(四)  同一五枚目裏八行目末尾の次に行を変えて、つぎのとおり追加する。

「別表は、昭和三六年ブラッセル関税品目表に準拠して採用施行され、全面的に従来の品目表の説税物品の類、品目の組変えを行つたのであるが、みぎ別表の施行に先立つて大蔵省において全国関税鑑査官に対する説明研究会が開催され、その席上、本件物品はブラッセル品目表(関税協力理事会が作成した関税品目分類表である。関税率は各国区区に定めている。)の七〇一四号に付記された『本号の品目はガラス小球を塗布した板であつて、道路標識またはパネルに取りつけるためのものを含む。』との註釈書きに記載された物品に該当するのではないかとの意見が発表されたが、決議として成立するには至らなかつたところ、その後本件物品と同種の物品が通関された際に、横浜税関長(前記期間内に転任により交替した三人とも)および大阪税関伊丹出張所は前記の意見に従つて二〇%の関税を賦課したのであるが、その後、税関鑑査部長会議も本件物品に対し二〇%の税率で課税する旨を議決したので、その後は全国的に本件物品の関税率は二〇%と統一されていたのであつたが、前記第一〇回関税協力委員会において、七〇一四号の註釈書きに記載された物品は、照明器具、信号用品、装飾用品等に使用されるガラス小球塗布のシートであつて、取付け用に特定の大きさ、形状に裁断されたものを言い、本件物品のように未だ裁断を受けない素材的なガラス小球塗布のシートはみぎ註釈書き記載の物品には該当しない。そのほか本件物品の構造等諸般の事情を参酌して本件物品は別表三九〇一号ないし三九〇六号(いずれも合成樹脂製品)に該当する旨の決議が採用されたのである。(みぎ関税協力委員会の理由に関する限り必ずしも正当でなく、みぎ註釈書き記載の物品はガラス製品とみなされるべきものであるが、本件物品はガラスと合成樹脂の混合品であることを理由とするのが相当である。)」

三控訴人は、神戸税関が本件物品を合成樹脂製品であるとしてみぎ物品に対して三〇%の関税を賦課徴収したのに対して、横浜税関および大阪税関伊丹出張所は本件の課・徴税処分のあつた期間と同一期間中に本件物品と同一品種の物品に対しガラス製品であるとして二〇%の関税を賦課・徴取していたから、憲法八四条、一四条により、本件物品についての神戸税関の課・徴税処分のうち他の税関の税率額を超える部分の課・徴税処分は違法であると主張するので、以下みぎ主張の当否について判断する。

憲法八四条は租税法律主義を規定し、租税法律主義の当然帰結である課徴税平等の原則は、憲法一四条の課・徴税の面における発現であると言うことができる。みぎ租税法律主義ないし課・徴税平等の原則に鑑みると、特定時期における特定種類の課税物件に対する税率は日本全国を通して均一であるべきであつて、同一の時期に同一種類の課税物件に対して賦・課徴収された租税の税率が処分庁によつて異なるときにもみぎ課・徴税処分のいづれか一方の誤つた税率による課・徴税をした違法な処分であると言うことができる。けだし、収税官庁は厳格に法規を執行する義務を負つていて、法律に別段の規定がある場合を除いて、法律の規定する課・徴税の要件が存在する場合には必ず法律の規定する課・徴税をすべき義務がある反面、法律の規定する課・徴税要件が存在しない場合には、その課徴税処分をしてはならないのであるから、同一時期における同一種類の課・税物件に対する二個以上の課・徴税処分の税率が互に異なるときは、みぎ二個以上の課税処分が共に正当であることはあり得ないことであるからである。そしてみぎ課税物件に対する課・徴税処分に関与する全国の税務官庁の大多数が法律の誤解その他の理由によつて、事実上、特定の課税物件について、法定の課税標準ないし税率より軽減された課税標準ないし税率で課徴税処分をして、しかも、その後、法定の税率による税金とみぎのように軽減された税率による税金の差額を、実際に追徴する見込みもない状況にあるときには、租税法律主義ないし課徴税平等の原則により、みぎ状態の継続した期間中は、法律の規定に反して多数の税務官庁が採用した軽減された課税標準ないし税率の方が、実定法上正当なものとされ、却つて法定の課税標準、税率に従つた課・徴税処分は、実定法に反する処分として、みぎ軽減された課税標準ないし税率を超過する部分については違法処分と解するのが相当である。したがつて、このような場合について、課税平等の原則は、みぎ法定の課税標準ないし税率による課・徴税処分を、でき得る限り、軽減された全国通用の課税標準および税率による課・徴税処分に一致するように訂正し、これによつて両者間の平等をもたらすように処置することを要請しているものと解しなければならない。

本件の場合、既に判示したように、本件物品は、別表および通則の解釈上、本来ならば通則三、(三)により合成樹脂製品の別表三九〇一号四に該当するものとして三〇%の関税を課すのが正当であるけれども、前示二で判示したように、(1)別表施行直前の関税鑑査官の研究説明会の席上で本件物品はガラス製品として七〇一四号に該当する物品であると解すべきであるとの意見が発表され、(2)神戸税関が本件物品に三〇%の課・徴税処分をした期間中に、横浜税関および大阪税関伊丹出張所では本件物品と同種の物品に対し二〇%の課・徴税処分をしていたし、(3)控訴人から神戸税関に対し本件物品に対する課・徴税処分について口頭の不服申立があつて後も、横浜税関および大阪税関伊丹出張所で二〇%の課・徴税処分を受けた本件物品と同種物品の輸入業者に対し、一〇%の税金の追加課・徴税処分があつた形跡は認められず、且つみぎ追加課・徴税処分のある見込みがない事情にあり、(4)本件物品に対する課税処分があつた後間もない頃、税関鑑査部長会議の決議により、全国統一的に本件物品と同種の物品に対しては二〇%の税率による関税を課することとなり、みぎ状態が可なりの期間継続していたのであるから、これらの諸事情に徴し、当時は、大蔵省関税局、全国の各税関および本件物品と同種の物品の輸入業者の多数の傾向としては、みぎ物品に対する関税の税率は別表七〇一四号により二〇%であると観念され、且つその取扱いをしていたのであつて、ひとり本件物品に対する神戸税関の課・徴税処分のみが、三〇%の税率によつたものと認められるのである。

みぎ事実関係の下では、別表および通則の施行された昭和三六年六月一日から、大蔵省関税局長から各税関長宛に本件物品と同種物品の税率を三〇%とする旨の通達があつた昭和三八年一〇月一四日までの間は、租税法律主義ないし課・徴税平等の原則の適用によつて、本件物品と同種の物品の関税の税率は、実定法上全国統一的に二〇%であつて、その期間中に本件物品に対して三〇%の関税を賦課徴収した神戸税関の課・徴税処分は、結局において、超過した一〇%の限度において法律に基づかない違法な課・徴税処分と当ると言うことができる。したがつて、本件の場合、別表および通則の解釈上、違法な課・徴税処分として是正を要するのは、横浜税関および大阪税関伊丹出張所における二〇%の税率による課徴税処分であつて、本件物品に対する神戸税関の三〇%の税率による課・徴税処分ではない旨の被控訴人の主張は採用できない。

四控訴人は本訴をもつて、みぎ各課・徴税処分のうち税率一〇%に相当する課・徴税処分の部分は無効であつて、みぎの無効な課徴税処分に基づいて被控訴人が控訴人から関税名義で徴収した金員、すなわち税率一〇%に相当する金二三一万〇、四一〇円は、被控訴人が控訴人の損失において法律上の原因なくして利得金に当ることを請求原因として、被控訴人に対しみぎ金員の支払いを請求していることは、本件記録に徴し明らかである。よつて、みぎ不当利得金返還請求の当否を判断する前提問題として、本件課・徴税処分のうち税率一〇%に相当する部分が、果して無効であるかどうかを判断する。

行政行為は、内在する瑕疵が重大な法規違反であつて、しかも瑕疵の存在が客観的に明白な場合においてのみ、無効となるものと解することができるところ、本件の場合のように、当時大多数の関係税務官庁が当該種類の課税物件に対し法定の基準より軽い課税標準ないし税率による課徴税処分を事実上していたために、その期間中、本来ならば適法なものであるはずの法定の課税標準ないし税率による課・徴税処分が、もつぱら課徴税平等の原則の適用上、違法な処分とされるに至つたものであるときには、みぎ違法によつて生じた当該課・徴税処分の瑕疵は、「客観的に明白なもの」と言うことはできないと解するのが相当である。けだし、本件の場合には、さきに判示したように、本件各課・徴税処分は課徴税平等の原則上違法視しなければならなくなつただけのことで、本来は違法な処分ではなかつたのであり、また、本件物品に対する神戸税関の税率三〇%の関税の各課・徴税処分は、いずれも、同税関の鑑査官が本件物品中にはその構成物品としてガラス製品が含まれていないとの誤認に基づいて税関長が課・徴税処分をしたもので、結果としてはみぎ課・徴税処分は違法なものとなつたけれども、このような違法があるからと言つてみぎ処分に客観的に明白な瑕疵があると言うことはできないからである。

したがつて、本件課・徴税処分のうち違法処分とみなされる税率一〇%相当の部分は、法律の解釈適用を誤つた処分として取り消し得るにすぎず、権限のある行政庁の取消しもないのに当然に無効となるものではない。

控訴人に憲法八四条一四条に違反する課徴税処分は重大且つ明白な瑕があるものとして当然に無効であると主張するが、憲法違反の処分は原則として重大な瑕疵ある処分と言うことができるが、重大な瑕疵は必ずしも明白な瑕疵に当ると言うことはできないのであつて、憲法違反の行政処分であつても、その処分に客観的な明白な瑕疵があるかどうかは各場合の具体的事情に基づいて判断するほかない。本件の場合には、さきにに判断したように、課・徴税処分の瑕疵は客観的に明白なものと言うことはできないから、控訴人のみぎ主張を採用することはできない。

五以上の判断から明らかなように、本件の課・徴税処分は権限ある官庁によつて取り消されるまでは有効なものであるから、被控訴人が控訴人から徴収した金員は、適法且有効に徴収されたものと言うことができるのであつて、これを法律上の原因なく不当に利得したものと言うことはできない。したがつて、控訴人の本訴請求はこの点で失当として棄却すべきものである。

みぎの当裁判所の判断と結論において同旨の原判決は相当で、本件控訴は失当として棄却を免れないから、民訴法三八四条、八九条を適用して主文のとおり判決する。(三上修 長瀬清澄 古崎慶長)

<参考>  本判決理由中で引用する原判決理由欄の記載

原判決理由欄の記載中、本判決理由で引用する部分はつぎのとおりである。

一、原判決理由欄の記載の冒頭から同一四枚目表一行目末尾まで(但し、同一三枚目表三行目冒頭から同枚目裏九行目までは本判決で変更したので除外する。)

「一、請求原因第一(項原告がスコッチライトの輸入販売を業として行うものであること)及び第二項(昭和三六年六月以降同年九月末日までの間、神戸税関長が原告に対し、原告輸入の本件物件について、関税定率法別表第三九類三九〇一号四―(二)に該当するものとして輸入品価格の三〇%の税率による関税の賦課徴収処分をし、原告がみぎ賦課額をその頃納入したこと)の事実は当事者間に争いがない。

二、そこで、本件物品が関税定率法別表の関税率表(以下関税率表という)に定める物品のいずれに該当するかについて検討する。

(一) 成立に争いない甲第八号証、鑑定人岩田稔の鑑定結果およびおよび証人岩田稔、同谷潔、同新山勇の各証言によれば、本件物品の構造は、別紙第二図面のとおりであること、すなわち上面より(1)が着色されたポリエステル系合成樹脂層、厚さ0.1mm弱、(2)は透明被膜層で同じくポリエステル系の合成樹脂でできたもの、厚さ0.02mm(3)はガラス微粒子およびこれを結合するアクリル酸エステル系の合成樹脂層で、厚さ約0.15mm、(4)はポリビニールプラチラール系の合成樹脂でできた透明間隙層で厚さ0.1〜0.15mm、(5)はアルミニウム反射層で、厚さ推定約5/104mm以上がアクリル酸系合成樹脂の接着剤によつて(6)の基板紙に接着されているものであることが認められ、右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

(二)、ところで、関税率表は「関税率表の適用に関する通則」を定め、その三としてつぎのように規定している(ただし、昭和三六年三月三一日改正、同年六月一日施行され昭和四一年三月三一日まで適用されていたもの)。

すなわち、

『三、物品がこの表の二以上の号に該当する場合には、別段の定めがあるものを除き、次に定めるところによりその所属を決定する。

(一) 当該物品の種類、性状、用途その他についての限定が最も狭義にされている号に掲げる物品とする。

(二) 二以上の物品を混合し、又は二以上の物品で構成した物品で(一)により所属を決定することのできないものはその物品に重要な特性を与える物品のみから成るものとみなす。

(三) (一)及び(二)により所属を決定することができない物品はその該当する物品のうち最も高い税率が定められているものとする。この場合において最も高い税率が定められている物品が二以上あるときは、これらのうち価格の合計額が最も高い物品とする。』

本件物品については、前記認定の構造ならびに組成および当事者間に争いのない本件物品の用途(道路標識、船舶浮標等夜間の標識材料として利用される)からして、その所属は関税率表第三九類「人造プラヌチックおよびその製品)のうち三九〇一号四―(二)「ポリエステル樹脂のもの」もしくは同号四―(四)「その他のもの」か、或は第七〇類「ガラス及びその製品」のうち七〇一四号「ガラス製の照明器具、信号用品及び光学用品」かのいずれかに決すべきものであることは明らかであるが、同表の各号および部または類の註の規定によつてただちにその所属を決定することは困難なものであるから、右引用の通則三に従つてそれを決すべきものと解されるところ、本件物品については右通則三―(一)によつては決定することはできず、同(二)ないし(三)によつて決定されるものとする。

なんとなれば、右(一)によつて所属を決定することがでさる場合とは、同規定の意味が或る物品の所属が同表上例えば広義ではa号に狭義ではb号に該当するという場合にはb号によつて所属を決定するということであるから、a号とb号との間には広義と狭義という関係(換言すればb号の物品はa号に含まれるという関係)にある場合でなければならず、本件物品について問題となつている三九〇一号四―(二)又は(四)と七〇一四号との間には右のような広義もしくは狭義という関係はないからである。

(三) そこで、右通則三―(二)もしくは(三)によることとして本件物品の所属を以下に検討する。

前掲各証拠ならびに成立に争いのない甲第七号証によれば、本件物品についてつぎのような事実が認められる。

まず本件物品は反射光紙(reflective sheeting)といわれるように光の反射をその作用とするものであるが、その反射のしかたはいわゆる再帰反射であつて、光が投射された方向の比較的狭い或角度範囲内にその大部分の光を投射光の跡を逆行せしめて光源に再帰させる反射作用を有するものであること。

右再帰反射がどのように行われるかを前記認定の別紙第二図面にもとづいていうと、投射された光はいつたん(1)(2)の合成樹脂層において屈折され、さらとは(2)とは屈折率のことなるガラス小球(3)のレンズ作用により(5)のアルミニウム反射層上に収斂され(光集束)、右反射層によつて反射されてほぼ平行光線として投射光の跡を逆行して投射方向に再帰する(集中反射)のものであること、またその際の合成樹脂の透明間隙層(4)が、ガラス小球の屈折率を考えて光が反射層上にちようど収斂するようにその厚さが定められていること。

以上のことから考えて、本件物品の再帰反射作用という光学的見地からいつてガラス小球が重要な作用を営むものであることは優に認められるところであるが、他方約九〇%の反射率を持つアルミニウム反射層およびガラス小球の屈折率との関係で光が反射層に収斂するように厚さを定められた合成樹脂の透明間隙層があることによつて非常に反射性能が高められていること、したがつて本件物の品反射作用については、ガラス小球、アルミニウム反射層および透明間隙層の三つがそれぞれ重要な作用を営んでおり、ガラス小球の光学的作用だけが本質的なものであるということはできず、右三者のいわば総合的作用が本件物品の高度の再帰反射性能を可能ならしめているのであつて、右三者の役割の間に主従の関係をつけることは困難であること(鑑定人岩田稔の鑑定結果ならびに証人岩田稔の証言中右に反する部分は、前記甲第八号証、証人谷潔、同新山勇の各証言にてらし措信できない)。

しかして、以上のような再帰反射構造そのものは、光学原理をそのまま応用したものであつて特異な構造とはいえないのであるが、前掲各証拠ならびに検一の一(本件物品と同一のもの)によれば、本件物品は表面は着色されたポリエステル系合成樹脂層におおわれ、裏面(基板紙と接する面)も合成樹脂の接着剤が塗布されており、合成樹脂の中に肉眼では識別することのできないほど微小なガラス小球がはめこまれている極く薄いシート状のものという外形を示しており、(そのため外観からはポリエステル系合成樹脂の製品であると思われる)、その組成からみれば合成樹脂が大部分を占めており、この合成樹脂のもつ特性によつてガラス小球、アルミニウムの反射層およびこの両者間の透明間隙層を遮光することなく一定の位置)に融合固定させていることとガラス小球が極めて微小であることから極めて弾力性に富み、ロール巻にして取引されており、ハサミ、ナイフ等で簡単に加工することができ、耐水性、耐腐蝕性がきわめて強いこと、とくに表面が合成樹脂層でおわわれなめらかかにされているのでガラス球の損傷を防ぎよごれを落しやすい等の特性を有し、これらのことが前記高度の再帰反射性能と結びついて本件物品に商品としての特性と実用性とを与えているものであること、そして右弾力性、耐久息等は主として本件物品を組成している合成樹脂属の息質からでてくるものであること。

以上の各事実を認めることができ、右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

(以下、原判決一三枚目表三行目冒頭から同枚目裏九行目までを省略)

(四) そうとすれば、昭和三六年六月頃から同年九月頃までの間神戸税関長が本件物品を関税率表番号三九〇一号四(ただし同号四―(二)にすべきであつたか四―(四)にすべきであつたかは前述したように本件では問題にしない)に所属を決定し、税率三〇%の適用あるものと認めたのは正当であつたことになる。」

二、原判決一四枚目表二行目冒頭から同一五枚目裏八行目末尾までの記載

「三、ところで、原告本人尋問の結果によれば、神戸税関長が本件物品につき原告に対し三〇%の課税処分をしていた右期間内において、横浜税関長および大阪税関伊丹出張所長は他の輸入業者に対し、本件物品と同一物品につきこれを関税率表番号七〇一四号に所属を決定し、税率二税〇%の課処分をしていたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(原判決一四枚目表八行目冒頭から同最終行目末尾までは本判決で削除したので省略する)

しかし、他方、<証拠>によればつぎのような事情が認められる。

本件物品の輸入に際し、当初原告の側から中にはめこまれているガラス小球の存在について神戸税関に対しなんらの申立もなかつたため、同税関ではガラス小球がはいつていることに気が付かず、外観から見れば明らかに合成樹脂製品であると思われたことと原告が物品の引き取りを急いだこともあつて物品の分析をしなかつた。

しかるに昭和三六年九月頃(別表六の九月一九日以後)原告が横浜の同業者から横浜税関長は本件物品と同一の物品に対して税率二〇%の課税をしている旨知らされ、はじめて神戸税関に対して口頭による不服申立をしたこと(それまでに口頭による不服申立をしたとの原告の主張事実を認めるにたる証拠はない。)

原告の右申立によつて、はじめて事情を知つた神戸税関長は、本件物品の所属について税関鑑査部長会議の決議の結果がでるまで右申立以降は関税法第七三条に基づき『輸入許可前における貨物の引取』扱いを実施し、その後の税関鑑査部長会議の決議が本件物品を七〇一四号該当品として税率二〇%を適用するということになつたので、右仮り渡しの物品については二〇%のとり扱いをし、その後は七〇一四号該当品として全国的に一律に二〇%の税率の適用がなされたこと、検二(製品番条三一番の物品)については昭和三六年八月一九日神戸税関はこれを七〇一四号に所属するとして税率二〇%を適用したことがあるけれども、右は本件物品とは表面部分の組成が異なり比較的大粒のガラス球が表面に多数露出したものであつて肉眼でもはつきり認識することができることからそのように分類したものであること(なおその後昭和三八年五月二一日から二四日にかけて開催された等二二回関税協力理事会において、本件物品ならびに検二(製品番号三一番の物品)の分類上の解釈について、その構成材料に応じて三九類のいずれかに分類すべきであるとする第一〇回関税協力会の決議が採決され、右採決を検討した大蔵省関税局は右理事会の採決が正当であるとして、昭和三八年一〇月一五日以降は本件物品および検二の物品は三九類のいずれかに分類するように通牒を発し全国税関では右通牒のように適用を改めている)。」

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